新型コロナウイルス(COVID-19)は,2019年12月8日に中国の武漢で初めての感染者が確認されて以降,爆発的な感染拡大が生じています。2020年3月7日には,中国全体の1日あたりの新規感染者が100人未満となり,収束に近付いています。
しかし,アメリカ,日本や韓国などのアジア,イタリアやスペインなどのヨーロッパ,イランなどの中東で感染が拡大しており,世界的にはまだまだ感染者数が低下する気配がありません(2020年4月時点)。
この記事では,新型コロナウイルスの感染者数が特に多い国・地域の1日あたりの新規感染者数を時系列に整理します。また,その結果を日本に適用した場合に,感染数のピークをいつ迎えて収束に近付くのかを予測したいと思います。
目 次
1. 感染者数の収束時期の定義
まず,新型コロナウイルスの感染者数の収束時期を定義します。
WHO(世界保健機関)による収束宣言を収束時期として考える方法もありますが,この収束時期が出るのは,新規感染者が2週間でないことなので,相当ハードルが高く,ほぼ完全に収束した状況といえます。
しかし,我々が一番知りたいのは,「感染者数がいつから減少し始めるのか」ですので,この記事の収束時期は「1日あたりの新規感染者数がピークとなる時期」とします。
2. 都市封鎖(ロックダウン)から収束時期までの期間
ここでは,都市封鎖(ロックダウン)をしてから,感染者数のピークを迎えるまでの時間を見ていきます。
※都市封鎖(ロックダウン)とは,対象とするエリアの人の移動を制限するとともに,企業活動を禁じることです。
2.1 中国 武漢の場合
まず,中国の武漢で新型コロナ感染者が見つかったときから,ピーク値までの時期を以下に整理します。
①初めての感染者が発見:2019年12月末
②武漢閉鎖:2020年1月23日
③新規感染者のピーク時期:2020年2月5日
(2020年2月13日の新規感染者数は,集計方法が変更になったためのためピーク値としない)
このように,時系列の新規感染者数と中国が武漢を閉鎖した時期を見ると,以下のことが見えてきました。
- 武漢を閉鎖して13日後に新規感染者数がピークとなり,その後減少しています。(2月23日の急激な新規感染者数の増大は,集計方法の変化による影響のため,ピーク値とはしません。)
- 新型コロナウイルスの潜伏期間は,最大で2週間(例えば,このニュース)といわれており,武漢を閉鎖して新規感染者数のピーク値を迎えるまでの期間(13日間)と概ね一致します。
- つまり,武漢を閉鎖し,人々の外出を規制することで,新規の感染者数を減少することができたと言えます。これは,人と人の接触を強制的に減らすことで,感染者数を顕著に小さくできた好例であり,非常に貴重な情報といえます。
2.2 イタリアの場合
次に,さきほどの武漢と同様にイタリアの例を見ていきます。
イタリアでは,2020年3月7日にミラノやヴェネツィアなどの大都市を含む都市封鎖(ロックダウン)が行われました。
1日あたりの新規感染者数のピークは3月22日頃です。
そのため,大都市のロックダウンから15日後に新規感染者数のピークを迎え,以降は減少傾向になっていることとなります。
2.3 日本での新規感染者数のピークを迎える時期の予測
2.1の武漢,2.2のイタリアでは,都市封鎖(ロックダウン)を実行してから,約2週間で1日あたりの新規感染者数のピークを迎えることがわかりました。
このことを日本の事例に当てはめてみましょう。
まずは,現状の日本の新規感染者数の時系列と日本での主な対策状況は,以下のとおりです。
2020年1月16日:初めて国内で感染者が発生
2020年2月27日:安倍首相が全国の小中高校の休校要請
(この時期くらいから,社会人も時差出勤や在宅勤務が開始され始める)
2020年2月27日:北海道が緊急事態宣言を発出し,外出を自粛抑制
2020年4月7日:緊急事態宣言を発出(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県)
武漢やイタリアで行われてた都市封鎖(強制力のある移動制限)と日本の緊急事態宣言(自粛要請)は,強制力を伴うか否かで特徴が異なるものですが,ここでは緊急事態宣言によって,ある程度は人と人の接触が抑制されていることを踏まえ,都市封鎖と類似の効果があると仮定します。
そうすると,緊急事態宣言から約2週間後の4月21日あたりに1日あたりの新規感染者数のピークを迎え,だんだんと感染者数の低下がみられる可能性があります。その場合,緊急事態宣言の期限である5月6日(GW明け)には,ある程度平常通りの生活に戻っています。
ただし,自粛要請がどの程度の効果が得られるか,また,日本では十分な数のPCR検査が実施されていないため,感染者数の全貌が把握できていないと考えられますので,判断が非常に難しいところです。
※追記
4/7の緊急事態宣言を発出した後,ぴったり2週間ではありませんが,4/11にピーク,4/17に2番天井を迎え,以降は減少傾向にあります。
このことは,強制力のない日本の緊急事態宣言(自粛要請)であっても,感染拡大をい抑制できたことを意味しています。
(ただし,日本はPCR検査数が少ないので,どの程度データの信頼性があるかの判断は難しいところです。)
3. 最初の感染者からピークまでの期間
各国の最初の感染者から,1日あたりの感染者のピークがみられた期間を整理します。
中国(湖北省のみ),イタリア,イラン,韓国,アメリカの1日あたりの新規感染者数のピーク値を0日とした時系列グラフを以下に示します。
また,感染者が最初に見つかった時期からピークまでの期間を見やすくするために,上記の日別感染者数(縦軸)をピークを1とした比率にすると,下図となります。
これより,最初に感染者が発見されてから,アメリカでは約50日後,イタリタと韓国では約40日後,イランでは約30日後に新規感染者数のピークを迎え減少に転じています。
なお,中国武漢は,最初の発生地域であり最初に感染者が出た時期の設定が難しいため,ここでは期間の算定は行っておりません。
この期間を日本の例に当てはめてみます。
日本では,2020年1月16日に中国湖北省武漢に滞在していた神奈川県在住の30代男性が初めての感染者です。しかし,これは海外で感染した事例のため,日本で本格的に新型コロナ感染者が見られたのは2月初旬とします。
そこから,イタリア・韓国で見られたピークまでの期間として,40日間を加えると3月末頃,50日を加えると4月上旬頃には日本の感染者のピークが見られるという概略計算になります。
※追記
日本では,4/11にピーク,4/17に2番天井を迎え,以降は減少傾向にあります。ぴったりではありませんが,日本のピークの時期は,上記の予想と概ね似た期間となっています。
この理由として,人々の移動抑制対策(日本では緊急事態宣言による自粛要請)を実施したためと考えられます。
(ただし,日本はPCR検査数が少ないので,どの程度データの信頼性があるかの判断はむずかしいところです。)
4. まとめ
この記事では,3章において,中国・イタリアの首都封鎖から新型コロナウイルス新規感染者数のピークまでの期間をもとに,日本での新規コロナウイルスの新規感染者数のピーク時期を予測しました。
その結果,日本の新規感染者数は,2020年4月21日頃にピークを迎え,今後は緩やかに減少する可能性があることを予測しました。
また,4章では,アメリカ,イタリア・韓国・イランでの感染者が見つかってからピークまでの期間をもとに,日本での新規コロナウイルスの新規感染者数のピーク時期を予測しました。
その結果,2020年3月末頃から4月上旬にはピークを迎えていることを予測しました。しかし,日本はPCR検査数が不十分であるため,感染者数のデータに,どの程度の信頼性があるかの判断は難しいところです。
5. さいごに
新型コロナウイルスの感染が拡大するかどうかは,以下に影響を受けると考えます。
①ウイルスの生存期間
②人々の接触度合い
(人が密集するところに感染者がいれば,感染が拡大しやすい)
③ウイルスの基本再生産数
(1人の感染症患者から何人に感染させるかで,感染力を表す)
④ウイルスの感染に影響する環境条件
(例えば,気温や湿度などの環境条件。ただし,現時点で何が影響するかは不明確)
本記事では,「①ウイルスの生存期間」,「②人々の接触度合い」,「③ウイルスの基本再生産数」の影響が中国,アメリカ,イタリア,韓国,イランなどの事例と同様であると仮定し,日本に当てはめた場合の収束時期を予測したものです。
この仮定はやや強引ではありますが,少ない検討材料で未知のウイルスの影響を予測しておりますので,やむをえないと考えています。
また,本記事では考慮できていない「④ウイルスの感染に影響する環境条件」の影響により,新型コロナウイルスの感染者数が増減することは十分に考えられます。今後のこのデータを更新し,予測結果を検証していきます。
なお,気温や湿度と感染者数の影響に関しては,本ブログの別記事「新型コロナウイルス(COVID-19)が高い気温や湿度で感染拡大が抑制されるかをデータから検証」で分析していますので,興味がある方はご覧ください。
作成:2020年3月19日
最終更新:2020年5月17日